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はじめに
アトピー性皮膚炎の診療の場において,特に治療上の混乱が生じているが,皮膚科医の多くはアトピー性皮膚炎の病態に即した治療法に疑問を感じているわけではない.すなわち,アトピー性皮膚炎を皮膚の生理的機能異常を伴い,複数の非特異的刺激あるいは特異的アレルゲンの関与により炎症を生じ慢性の経過をとる湿疹としてその病態をとらえ,その炎症に対してはステロイド外用療法を主とし,生理学的機能異常に対しては保湿剤外用などを含むスキンケアを行い,掻痒
に対しては抗ヒスタミン剤,抗アレルギー剤を補助療法として併用し,悪化因子を可能な限り除去することを治療の基本とするコンセンサスは確立されている.ところが,この理解のもとにアトピー性皮膚炎の治療に携わる皮膚科医が現在困惑しているのは,治療の大きな柱であるステロイド外用剤に対して患者、さらには社会一般に根拠に乏しい不信感が生じ,ステロイド外用剤忌避の風潮が強まり,必要かつ適切な治療を施せないままに重症化した患者が増加し,結果的に患者に多大なる不利益が生じている事態に対してである.
以上の経緯により,2000年に発表された日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドライン*(日本皮膚科学会雑誌110(7):1099−1104.2000)は,皮膚科診療技能について充分に修得し,アトピー性皮膚炎の病態を理解し,かつその診療においても充分な経験を有する皮膚科医にとっては,その治療原則の再確認を行うとともに,それ以外でアトピー性皮膚炎の診療に関与する医師に対しては,診療の大前提としての皮膚科診療トレーニングの必要性を説いたものであり,患者ならびに社会に対しては,日本皮膚科学会として2000年時点で適切と考えられる基本的治療方針を提示したものであった.本ガイドライン2000の公表にあわせて日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療問題委員会による患者相談システム(http://web.kanazawa-u.ac.jp/~med24/atopy/therapy.html)を設立したことによって,日本皮膚科学会は本症の標準治療の普及と患者サービスを向上させてきた.更に,暮しの手帖社より,一般患者向けのガイドライン解説書『専門医がやさしく語るアトピー性皮膚炎』も出版し,本症に対する正しい理解の普及に努めてきた.
-日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2004改訂版抜粋-
薬物療法
アトピー性皮膚炎は遺伝的素因も含んだ多病因性の疾患であり,疾患そのものを完治させうる薬物療法はない.よって対症療法を行うことが原則となる.1)炎症に対する外用療法現時点において,アトピー性皮膚炎の炎症を充分に鎮静しうる薬剤で,その有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤はステロイド外用剤である.その他の外用剤では,非ステロイド系消炎剤外用剤(NSAID外用剤)があるが,抗炎症作用は極めて弱く,接触皮膚炎を生じることがまれではなく,その適応範囲は狭い.近年使用が開始された移植免疫抑制薬タクロリムスの外用剤は,ステロイド外用剤とは作用機序が異なる新しいタイプの薬剤であり,我が国では世界に先駆けて1999年11月タクロリムス軟膏0.1%成人用が,次いで2003年12月タクロリムス軟膏0.03%小児用が世界20数カ国に遅れて発売となった.発売後,既に4年以上を経たタクロリムス軟膏の0.1%成人用については特に成人の顔面・頸部の皮疹に対して高い適応のある薬剤として位置づけられている.しかし糜爛,潰瘍面には使用できない,薬効の強さには隈界があるなど,ステロイド軟膏にはない使用上の制約がある.その使用は後述の項目を参考にし,別途公表されている「アトピー性皮膚炎におけるタクロリムス軟膏の使用ガイダンス」(臨皮57:1217−1234.2003)に忠実に従うことが必要であり,実際にはその内容即ち,対象患者年齢・禁忌・原則禁忌・慎重投与などの項目が十分に理解できる高度の専門性を有する医師によりなされることを前提とする.よって,アトピー性皮膚炎の炎症を速やかにかつ確実に鎮静させ,患者の苦痛を取り除ける薬剤で広く使用でき,その有効性と安全性が十分に評価されているものは現在のところステロイド外用剤であり,それに準ずるものとしてタクロリムス外用剤がある.いかにそれらを選択し,使用するかが治療の基本である.薬剤であるが故,ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤には当然副作用,特に局所性の副作用はあるが,効果の高さと局所性の副作用の起こりやすさは一般的には平行することから,必要以上に強いステロイド外用剤を選択することなく,皮疹の重症度に見合った薬剤を適性に選択することが重要である.従って「個々の皮疹の重症度」に応じて次のような選択を行う.
重症:
必要かつ充分な効果を有するベリーストロングないしストロングクラスのステロイド外用剤を第一選択とする.ミディアムクラス以下では通常充分な効果は得られない.強い浮腫,浸潤,紅斑を伴う苔癬化病変または痒疹結節でベリーストロングクラスでも充分な効果が得られない場合は,その部位に限定してストロンゲストクラスを選択して使用することもある.
中等症:
ストロングないしミディアムクラスのステロイド外用剤を第一選択とする.ウィーククラスでは通常充分な効果は得られない.
軽症:
ミディアムクラス以下のステロイド外用剤を第一選択とする.
軽微:
ステロイドを含まない外用剤(ワセリン,尿素軟膏,ヘパリン類似物質含有軟膏,亜鉛華軟膏,親水軟膏など)を選択する.
コンプライアンス:
ステロイド外用剤に対する誤解(ステロイド内服剤の副作用と混同およびアトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用剤の副作用との混同が多い)から,ステロイド外用剤への恐怖感,忌避が生じ,コンプライァンスの低下がしばしばみられる.その誤解を解くためには十分な診察時間をかけて説明し,指導することが必要であり,それが治療効果を左右する.
ステロイド外用剤の副作用:
ステロイド外用剤を適切に使用すれば,副腎不全,糖尿病,ムーンフェイスなどの内服剤でみられる全身的副作用は起こり得ない.局所的副作用のうち,ステロイドざ瘡,ステロイド潮紅,皮膚萎縮,多毛,細菌,真菌,ウイルス皮膚感染症などは時に生じうるが,中止あるいは適切な処置により回復する.ステロイド外用剤の使用後に色素沈着がみられることがあるが,皮膚炎の鎮静後の色素沈着であり,ステロイド外用剤によるものではない.まれにステロイド外用剤によるアレルギー性接触皮膚炎が生じうる.
全身療法
アトピー性皮膚炎は白覚症状としては掻痒を伴うことが特徴であり,その苦痛の軽減と痒みによる掻破のための悪化を予防する目的で抗ヒスタミン作用を有する薬剤を使用する.抗アレルギー剤の有するケミカルメディエーター遊離抑制作用などのいわゆる抗アレルギー作用は,外用療法の補助療法としての効果を期待するものであり,単独でアトピー性皮膚炎の炎症を抑制しうるものではない.
その他の治療法
その他の特殊な治療法については,一部の施設でその有効性が強調されているのみであり,科学的に有効性が証明されていないものが多く,基本的治療法を示す本ガイドラインには取り上げない.更には,むしろその健康被害の面に留意すべきである(アトピー性皮膚炎不適切治療健康被害実態調査報告書,2000,日皮会誌110:1095−1098.2000).特殊療法のなかでは,PUVA療法が一定の評価を受けているが,一般的に行われるには別にガイドラインを設定する必要がある.
*【2000年版アトピー性皮膚炎治療ガイドライン作成委貝会】
委員長:川島眞(東京女子医大)委員:瀧川雅浩(浜松医大)中川秀己(白治医大)古江増隆(九州大)アドバイザー:飯島正文(昭和大)飯塚一(旭川医大)伊藤雅章(新潟大)塩原哲夫(杏林大)竹原和彦(金沢大)玉置邦彦(東京大)宮地良樹(京都大)橋本公二(愛媛大)吉川邦彦(大阪大)
論文の別刷請求先 :(〒920−8640)石川県金沢市宝町13−1金沢大学大学院医学系研究科皮膚科学教室 竹原 和彦教授
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